株式会社ジェイアール東日本建築設計事務所
JR東日本

コラム

気仙沼線BRT駅

(2013年12月   記)

2011年3月11日に発生した東日本大震災ではJR東日本の鉄道施設も大きな被害を受けた。その後、4月29日に東北新幹線が全線で運転を再開するなど着実に復旧は進められてきたが、特に被害が甚大な線区では鉄道復旧に時間を要することが想定された。JR東日本は早期に地域の足を確保するため、気仙沼線柳津~気仙沼間について、鉄道敷を活用しバス専用道として整備する「BRT:Bus Rapid Transit(バス高速輸送システム)」により仮復旧を行うことで自治体と合意した。
JRE設計は、お客さまに少しでも快適にご利用いただけるよう、JR東日本とともにBRT駅の整備に取り組むこととなった。

気仙沼線BRT駅
はじめに

気仙沼線は、宮城県石巻市の前谷地駅と気仙沼市の気仙沼駅をつなぐ線区である。このうち沿岸部である柳津駅から気仙沼駅までがBRTによる仮復旧がなされることとなった。BRTは一般的に、常設の専用走行空間を有することにより、渋滞の影響を排除し、通常の路線バスよりも高速かつ定時の走行を実現するシステムである。気仙沼線では、線路や橋梁が津波により流出した区間が広範囲にわたっていることから、一部一般道を利用することとなった。

東北沿岸部の案内図
BRT駅設置の諸条件

BRT専用道の整備が難しい場所は、既存駅舎跡地ではなく一般道路沿いの民地を借地し駅を設置することとなるが、民地も津波の被害を受けていることから、所有者の所在を探し、同意を得る必要がある。
津波に対し安全が確保できるまちづくり計画が策定されるまで、自治体が建築制限を設けている地域もある。その場合は、まちづくりが実行に移る際に移設または撤去が可能なものとして許可を受けて建築することとなる。   
一般道沿いに設置する場合には、一般車や歩行者の通行に支障がないよう、道路管理者や交通管理者との協議も必要である。

基本計画

BRTによる仮復旧を検討するにあたり、JR東日本から当社に対し、駅舎デザイン・イメージ提案が依頼された。復旧はスピードが重要であるため、アイデア出しからコンセプト策定、イメージパース作成まで2週間という限られた時間のなか、集中的に取り組んだ。
BRT全体のトータルコンセプトを「まちとまちを駅でつなげる」とし、それに基づき「灯り」をイメージさせる案を社内で選定した。灯りとは、人間の暮らしと未来を明るく照らし続けるものであり、人々の安全を守り、安心感を与え、癒しと活力の源となるものである。さらに温かみを持たせるため、丸みのある和の行灯を意識したデザインが生まれた。このデザインは志津川駅の設計のベースとなっている。
こうした提案を基にしてJR東日本が諸条件の整理を行った後、基本計画が完成した。

43時間でのデザイン提案

2012年5月、JR東日本と沿線の気仙沼市、南三陸町、登米市がBRTによる仮復旧を進めることで合意し、実現に向けて動き出した。そして6月初旬。当社では本社と東北事務所が協力し、小規模、中規模、既存駅舎改修のそれぞれについて、デザインの異なる3案を作成することとなった。締め切りまでは43時間。限られた時間ではあったが、震災1ヶ月後に現地調査を行っていたため、周辺の状況のイメージはできていた。   
全ての駅での汎用性を高めるため、BRTの車体色に合わせた鮮やかなサインをポイントに配するデザインとした。最後にパース作成担当が徹夜で3案のパースを完成させ、無事にJR東日本に提出することができた。

駅の概要
志津川駅

◇志津川駅
かつての志津川駅は、気仙沼線において最も被害が大きかった地域に位置していた。そこで新たな駅舎は南三陸さんさん商店街隣の旧消防署跡地に設置されることとなった。
志津川駅は駅員を配置する中規模駅で、待合所、駅事務室、トイレを有する。行灯のイメージを限られた予算と工期でいかに実現するかに工夫を重ねた。

◇陸前階上駅
既存の木造駅舎が残存しており、駅舎改修と専用道の上家を整備した。必要最小限の改修でBRT駅としてのデザインの統一性を持たせるため、入口部に格子状のフロントサッシをダブルスキンで設置し、残りの壁は木調ルーバーを用いたデザインとした。

◇最知駅
暫定開業にあわせて、専用道の駅として整備された小規模駅。敷地の奥行きが狭いため、上家と待合所を直線的に配置した。

(上)陸前階上駅
(下)最知駅
 
開業、その後

2012年8月20日。陸前階上駅・最知駅間の専用道化工事完成に伴い、柳津駅・気仙沼駅間でBRTが暫定開業した。本格運行開始(JR東日本がバス事業者となって運行を委託する形態)となった同年12月22日には、暫定開業時に供用開始された3駅を含む9駅の整備がなされていた。
暫定開業時には2.1kmであったBRT専用道の整備も進められ、2013年9月現在の総延長は21.7kmとなった。また同年3月には、大船渡線の気仙沼駅・盛駅間でもBRTの運行が開始された。 本格的な震災復興への道程はまだまだ長いと思われるが、BRTがその一助になるならば、JR東日本グループの一員としてこの上ない喜びである。