DESIGN STORIES_WATERS takeshiba

水辺の文化・芸術発信拠点となる次の豊かさを生み出す街

JR浜松町駅から徒歩6分の場所に位置する東京・竹芝エリア。
江戸時代から続く歴史の面影が残るこの地において、
水辺環境を活かした新しい賑わいをつくることをテーマとした「WATERS takeshiba」プロジェクトは始まった。

WATERS takeshiba

タワー棟
建築主:東日本旅客鉄道
所在地:東京都港区
階数:地下2階 地上26階 塔屋2階
延べ面積:62,625.47㎡
構造:S造(一部CFT、地下SRC造)
竣工年:2020年
シアター棟
建築主:東日本旅客鉄道
所在地:東京都港区
階数:地下1階 地上6階
延べ面積:28,709.92㎡
構造:S造(地下RC造)
竣工年:2020年
パーキング
建築主:東日本旅客鉄道
所在地:東京都港区
階数:地下1階 地上10階
延べ面積:12,129.03㎡
構造:S造(地下RC造)
竣工年:2020年

江戸〜現代まで時代を重ね続ける庭園

東京湾の海水を引く潮入の池や2つの鴨場を持つ浜離宮恩賜庭園。江戸時代初期の1654年に徳川将軍家の別邸として建てられ、鴨猟や鷹狩、釣りなどが楽しめる貴重な場であった。幕末には海とつながる立地を活かした幕府海軍伝習屯所が置かれ、明治維新を経て1870(明治3)年からは宮内庁所管の離宮として外国貴賓の接遇にも利用されてきたが、太平洋戦争終戦により東京都に下賜され、1945(昭和20)年から「浜離宮恩賜公園」として多くの人々に親しまれている。

この浜離宮恩賜庭園に隣接する約23,000㎡におよぶJR東日本の事業用地を活かした新たな街づくりが「竹芝プロジェクト」だ。JR浜松町駅から徒歩6分という都心でありながら、東京湾に囲まれた都心でも珍しい豊かな水と緑が広がるロケーションを活かし、以前より劇団四季の劇場がこの地で培ってきた文化・芸術の発信拠点としての機能をさらに昇華させるとともに、新たな賑わいをつくることをテーマにプロジェクトはスタートした。

水と緑を一望できるホテルのテラス。浜離宮恩賜庭園と高層ビル群が「江戸」と「東京」という歴史のコントラストを見せる

計画地は東京湾に面しており、眼前には浜離宮恩賜庭園の豊かな水と緑が広がるとともに、周辺には旧芝離宮恩賜庭園や増上寺などの歴史資源にも恵まれている。そして、浜離宮の背景に立ち並ぶ汐留の超高層ビル群を望む風景は、江戸と東京という歴史のコントラストを感じられる稀有な特徴を有する場所だ。武士の嗜みの場から、軍事拠点、外交の舞台、市民が憩う公園へ。時代に応じたレイヤー=階層を重ねてきた延長として、さらに江戸と東京の融合として、「レイヤード・テラス/現代の庭園建築」というコンセプトは誕生した。

ランドスケープと一体化した「現代の庭園」

本プロジェクトは、タワー棟、シアター棟、パーキングの3棟から構成される。タワー棟は、浜離宮や汐留の高層ビル群、東京湾といった景観を余すことなく堪能できるよう、上層部をラグジュアリーホテル、中層部をオフィスとした。一方、四季劇場[春][秋]を有するシアター棟は敷地の西側に配置し、既存の自由劇場とのつながりを持たせた。そして、2棟の低層部は商業施設とし、広場を中心とした外部空間の賑わいとの相乗効果を生み出すことを期待する配置計画とした。

江戸時代の優れた庭園は、外部空間を内部空間のように扱い、外部と内部の境界をあいまいにしていくことで建物の領域を広げ、敷地全体を建物のように扱っている。その手法を「現代の庭園建築」として昇華させることにした。そこで着目したのがタワー棟、シアター棟の「縁側」となるテラスである。活動的な外部空間としてのテラスを水平にも垂直にも広がるようなデザインとし、建物内部空間と連続させ、豊かな自然環境と賑わいを敷地全体へ拡張させた。

タワー棟、シアター棟の谷に位置する屋外広場は、各棟のテラスと呼応することで建築と一体となった賑わいを生み出し、水辺環境につながる開放された店舗といった新たなプログラムを生み出す装置となっている。また、エリア全体の玄関となる入口から進むにつれて徐々に視界が開けていくように建物を配置することで、その先に広がる芝生広場の三角形上の視覚的効果と相まって、訪れた人々は自然と水場へと誘われる。イベント開催時には広場を中心に観覧席となる大階段やシアター棟テラスの芝生広場などを設けることにより、エリア全体の回遊性や連続性を楽しむことのできる建物と一体化したランドスケープとなった。

広場から水平・垂直に広がる外部空間。江戸時代の優れた庭園の手法を現代のデザインに昇華させた
地上の広場からテラスが段状に連続するタワー棟

「縁側」が広がるシンボリックなランドマーク

タワー棟は、地上の広場から段上に連続するテラスを、建物内部のプログラムの要求にこたえつつグラデーショナルに形を変えながら配置することで、ランドスケープと一体となった建築を目指した。上層部にあるラグジュアリーホテルでは、浜離宮に面する客室すべてにテラスを配置し、上階に向かうほどテラスの面積を大きくすることで、眼前に広がる浜離宮と汐留の現代的な高層ビル群やスカイツリーが一望できる開放的な眺望と屋外空間を提供する。

中層部にあるオフィスは、風の影響を受けにくい下層部に向かって徐々にテラスの面積を大きく広げることで、アウターワークスペースを持つオフィスとして活用できるようにし、上階のオフィスではテラスの奥行きを浅くすることで執務室内からの眺望がより開けるよう工夫した。そして、下層部にある商業空間は、浜離宮や水辺、広場、シアターとつながるテラスを介して、店舗空間が一体的になるような配置計画にすることで、お互いの賑わいを延長し、連続していくことを期待した。

「テラス」によって生み出されたこれらの新しいプログラムや体験が建物の縁側として変形しながらシームレスに連続していくことで、しなやかでシンボリックな形状のタワーをつくり出した。また、陽が傾くと、しなやかなシルエットが浮かび上がってくるようテラスのエッジを強調したライティングを採用している。こうしてタワー棟は、建築として、ランドスケープとして、東京における水辺エリアの新たなランドマークとして誕生した。

街全体に彩りを与えるハレの場

四季劇場[春][秋]を有するシアター棟は、水辺広場やタワー棟と一体的な空間を構成するデザインを基本とした。建物を正面から見た外観においては、「劇場の持つ個性の表現」と「2つの劇場という長大なボリュームが生み出す圧迫感の軽減」という相反する2つの命題をどのように両立するかがポイントだった。そこで、舞台装置が収まる巨大なフライタワーの上部に大らかで軽快な屋根を載せることでボリュームの圧迫感を和らげるだけではなく、生み出された雄大な軒によって周辺との関係性を緩やかに連続させようと考えた。さらに浜離宮への日影の影響を軽減するために最適化された屋根形状を採用し周辺環境との調和を図った。

2つのフライタワーの壁面には、劇場名である「春」「秋」にちなみ、桜と紅葉という四季を代表するグラフィックを彫り込むことにした。これにより、劇場へ訪れる期待感や高揚感など非日常的な雰囲気を醸し出すとともに、浜離宮や広場の背景になる庭園コラージュとし、街に彩りを与えることを期待した。

大屋根が街側に開き、水辺に向かって階段状にテラスが広がるシアター棟
2棟の水平ラインが水平線や浜離宮の緑のラインと連続する

建物外に用途が拡張する大人の空間

都心部にありながら水と緑を感じられる敷地に立つ商業施設とはどうあるべきか。ホテルやオフィス、劇場が複合する施設における商業空間のあり方を考えて設計されたのが、広場を中心に配置されたタワー棟とシアター棟の1階から3階にある「アトレ竹芝」だ。目指したのは、「ここまでが商業施設」といったエリアに縛られる感覚を薄れさせ、建物外に用途が拡張していくような場所だ。

飲食店舗区画には内外をつなぐことのできる大型のサッシを設け、内部から外部に拡張した店舗づくりを可能とした。タワー棟は一部を除き、店舗区画が外部に面するよう配置。3層の吹き抜けをエレベーター周りに設けることで上下への開放感を演出するなど、内と外、上と下で人の動きを誘うことを意図した。シアター棟は店舗区画を主に外部とつながる位置に配置し、外部との連続性を高めた。また、劇場というエッセンスを環境デザインに取り入れることで、商業施設単独では得られない空間づくりを試みた。

各フロアのテーマは、立地の特性である豊かな自然から設定。タワー棟では天井意匠や床パターンでリズムをつくり、壁面にはグリーンのアートを施したタイルで遊び心を交えた印象に残る環境をつくりだした。シアター棟は上下階をつなぐ象徴的な意匠や照明を施し、長い通路ではアートワークにより劇場的な楽しさや期待感を演出。さらに、外にいる時の心地よさを内部空間に引き込むため、多種多様な植栽や家具を配置することで空間に柔らかさと居場所を与えた。こうして、これまでの都心部の商業施設とはまったく異なる広がりを持つ空間が生まれた。

左上:タワー棟16階ホテルロビー 右上:タワー棟オフィスエントランス 左下:シアター棟メインエントランス 右下タワー棟1階商業

水辺、建物、ランドスケープの一体化

2020年10月24日、4月から順次開業していた東京・竹芝の「WATERS takeshiba」がまちびらきを迎えた。多くの駅ビル・エキナカに展開するアトレ初の「エキソト」は成熟した感度を持った大人をメインターゲットとし、テラス席での食事も楽しめるレストランやラグジュアリーナイトクラブラウンジ、楽しみながらダイバーシティを体感できるミュージアムなど、新しい豊かさと好奇心を満たす場となった。また、建築的には、テラスを避難場所にできたことも個性的な店舗計画を実現できた要素でもある。

竹芝の水辺は、陸の動脈でもある山手線と、水の動脈である隅田川から羽田へとつながる水路の結節点でもある。今回のプロジェクトでは広場から伸びる船着場を整備し、浅草、お台場、豊洲などへの定期船の運行も開始した。加えて、災害時には水上輸送と陸上輸送とが連携する防災船着場としての役割も果たす。また、東京湾最奥部に位置し、潮の流れが穏やかな内水面を活かした干潟も整備した。都心の大規模開発とともに生まれたこの干潟は、かつての豊かな「江戸前の海」の再生に向けたモデルケースの場としても期待されている。

ランドスケープと建物が一体となり、さらには干潟や船着場といった水辺を介して浜離宮までもが1つの空間として竹芝エリア全体の価値向上に寄与する、東京の新たな文化・芸術の発信拠点「WATERS takeshiba」プロジェクトは、江戸時代から続く歴史的価値を後世に引き継ぐ重要な役割を果たしたといえる。

シアター棟テラスより広場と水辺を望む