DESIGN STORIES_JR横浜タワー・JR横浜鶴屋町ビル

時代の先端を行く横浜の新たな景色

国際都市・横浜では、2009年に住む人にも訪れる人にも魅力的な街づくりを目指した「エキサイトよこはま22」を制定。
「横浜駅西口開発ビルプロジェクト」は、そのリーディングプロジェクトとして
新たな時代に向けた「横浜らしさ」を象徴する都市景観をつくることを任された。

JR横浜タワー
建築主:東日本旅客鉄道、ルミネ、
横浜ステーシヨンビル、ティ・ジョイ、
ジェイアール東日本ビルディング
所在地:横浜市西区
階数:地下3階 地上26 階
延べ面積:98,491.53㎡
構造:S造一部SRC造
竣工年:2020年
JR横浜鶴屋町ビル
建築主:東日本旅客鉄道、
横浜ステーシヨンビル、日本ホテル、
JR東日本スポーツ
所在地:横浜市神奈川区
階数:地下1階 地上9階
延べ面積:31,268.97㎡
構造:S造一部SRC造
竣工年:2020年

国際交流の拠点として生まれ変わる横浜

幕末、日米和親条約の締結によって横浜は1859(安政6)年に開港。多くの外国人がこの地に住み、日本を代表する貿易都市として発展を遂げた。今も残る赤レンガ倉庫などは、近代日本の黎明期を代表する建物といえる。その後、関東大震災による被災や太平洋戦争終結後の米軍による接収を経て、戦後復興の拠点、高度成長期の住宅地と京浜臨海部の拡張など、横浜は日本の国家戦略を先導的に展開する都市としての役割を担ってきた。

開港から150年という大きな節目を迎えた2009(平成21)年、横浜市は横浜駅周辺、ヨコハマポートサイト、みなとみらい21、関内地区を中心に、国際化への対応、環境問題、駅としての魅力向上、災害時の安定性確保などの課題を解消する「エキサイトよこはま22」を策定し、訪れる人にも、住む人にも魅力的な街づくりを目指している。

開発が進む横浜駅西口。中央やや右がJR横浜タワー。首都高を挟んだ左側に円形車路が特徴的なJR横浜鶴屋町が見える。

そのリーディングプロジェクトに位置付けられたのが横浜駅西口開発ビルプロジェクトだ。横浜駅周辺を世界とつながる玄関口として、多くの人が集まる駅にふさわしい魅力の向上、災害に対して安全な街づくり、環境にやさしい街づくりを目指し、常に時代の先端であり続ける「横浜らしさ」を象徴する都市景観をつくり上げることが期待された。

メインエントランスの「アトリウム」。大きな船底を思わせる天然木の天井が圧倒的な存在感を示している

新たな横浜のシンボルとなる「波間に浮かぶ大きな船」

横浜駅が現在の場所に完成したのは1923(昭和3)年。当時の西口付近は資材置き場だった。戦後は米軍に接収されていたが、その後西口一体を相模鉄道が買収し、商業地としての開発が進むことになる。1956(昭和31)年に西口名品店街が形成され、1962(昭和37)年には当時の国鉄が進めていた「民衆駅」整備により、駅ビル「シァル」が開業。その後、約50年にわたり西口の顔として人々に親しまれてきた。

そして横浜駅西口開発ビルプロジェクトとして2020(令和2)年に誕生したのがJR横浜タワーだ。「エキサイトよこはま22」において横浜駅は「世界と横浜をつなぐ玄関口、ホスピタリティあふれる横浜の顔」として期待されている。地下3階から10階までの商業ゾーン、12階から26階までのオフィズゾーンからなるこのビルの意匠デザインにおいて、そうした横浜らしさをどのように表現するか。そのキーワードとなったのが「みなとまち」だった。

さらに「みなとまち」から連想されるモチーフとして「ゲート」「帆」「船」を取り上げ、これらを抽象化・素材化して建築デザインに取り入れることを試みた。タワーのエントランスでありJR横浜駅への導線でもある駅前大通りの正面に、高さ55mにもなるゲート状の4層吹き抜け空間「アトリウム」を設け、杉天然木による船底状の量塊を浮かべ、広場側は前面ガラスカーテンウォールとした象徴的な空間を創り上げた。

線路上空の活用を可能にしたタワー構造

横浜駅は、JRを含めた6路線が乗り入れている交通拠点である。このような主要ターミナル駅の再開発におけるポイントのひとつは敷地の有効活用だ。今回のプロジェクトでは、駅前広場と線路に挟まれた奥行きの狭い敷地のポテンシャルをどのように最大化するかが重要だった。そこで、アトリウムの構造については、約1/3の面積をJRの線路上空に跳ね出す構造で設計。約13mもの大きなキャンチレバーを低層棟最上部に設けた2層のハットトラスから吊ることで、アトリウムの無柱化と約48mのガラスカーテンウォールの吊り下げを実現した。

このことによって商業施設として必要な空間の奥行が確保されただけではなく、JR横浜タワーの「顔」ともいえるアトリウムに浮かべた天然木の船底状のファサードデザインを駅前広場側だけではなく線路側にも展開することが可能となった。通常、駅ビルは街側に顔がつくられることが多く、線路側は背面となりがちであるが、JR横浜タワーは線路側に「回遊デッキ」を設けてホームからの景観に配慮するとともに、海と鉄道が見渡せる新たな視点場を創出している。

また、杉天然木天井は全層吹き抜けとし、頂部に通気塔を設けることにより重力換気を促進し、効率的に排熱することによって熱負荷の低減を図るなど、環境にもやさしい設計となっている。

このような非常に難易度の高い構造の建築を、鉄道の運行を妨げず、線路近くでの安全を確保して実現できたのも、JRE設計が長年培ってきた強みが活かされたからである。

歴史を受け継ぎ新たな時代に向けた象徴へ

JR横浜鶴屋町ビルは、当初は西口開発ビルの附置義務駐車場としての位置づけのみであったが、駅近接というポテンシャルを活かすため、ホテルや商業施設、フィットネス、保育所などを併設した複合施設として設計することになった。ダイナミックなボリュームの円型車路のデザインは柱を内側に入れて浮遊感を生み出し、らせん構造をモニュメントのように見せることを狙った。当ビルは、かつての東海道神奈川宿である鶴屋町地区の玄関口に位置しており、歴史を尊重しながら新たなものを取り込んで発展してきた横浜らしさを、「和」でありながら「洋」のモダンさも感じられる市松模様のファザードで表現している。線路からの音や振動、周囲とのスケール感に配慮し、線路側を駐車場、街側をホテルとした。

また、設計では31mの高さ制限がある中で各階の階高制限が厳しく、設備の設計施工が困難になることが予想された。そこで、ホテルや商業施設などそれぞれの事業者が異なる設備会社に発注するのではなく、施工会社を統一して発注することを提案。結果的に受発注の流れが単純化され、全体のコストを抑えることにもつながった。

JR横浜タワーとJR横浜鶴屋町ビルは約200mの歩行者デッキ「はまレールウォーク」で結ばれ、タワー線路側の回遊デッキへとつながる。はまレールウォークは「エキサイトよこはま22」の歩行者動線計画の一部であり、将来的には、このデッキが駅周辺を取り巻くように拡張され、人々が気持ちよく歩ける空間になることが期待されている。

ホテル客室窓による市松模様が印象的な西側ファサード(左)。モニュメントのような円形車路(右)。

大規模プロジェクトに欠かせない関係者との協議・調整

駅ビルの再開発には、駅を含めた周辺施設との接続や、工事期間中の旅客流動の確保など様々な課題を解決する必要がある。発注者であるJR東日本、運営する駅ビル会社、オフィス事業者、周辺施設の事業者など、事業者同士が合意した上で予見される課題を一つひとつ整理し、工事に着手しなければならない。そのため、プロジェクトメンバーで各事業者の相談窓口を分担し、課題解決に向けた調整を行うととともに、メンバー間で課題を共有しながらプロジェクトの最終形を見据えた全体としての解決策になるよう調整した。

また、新たな横浜駅は、災害発生時の防災拠点としての役割が求められており、帰宅困難者等を受け入れる施設として機能するためには電気インフラが重要となるが、横浜駅に関わる鉄道事業者や商業事業者など協議先は多岐にわたり、インフラ状況や施工できる時期も異なる。さらに災害発生時には横浜市の災害対策室を設置することとなっており、システム構築など複雑で難しい協議が続いた。時間的な制約のある中、関係各所との情報共有を密にすることで問題点の迅速な解決に向けた取り組みを行うことで、厳しい条件を乗り越えていった。

現場着手からの工期は4年以上。これほど大規模なプロジェクトともなると必然的に関係者は多くなり調整は複雑化するため、川上から川下の現場まで関係者全員が連携し合い、同じ方向に進むことではじめて成し遂げることができる。まさに、クライアントに寄り添い、プロジェクトの開発計画から工事監理に至るまで一貫したスキーム構築を可能とするJRE設計の力が試されるプロジェクトであった。

アトリウム1階とJR線ホームが視覚的につながる(左)。タワー12階のオフィスフロアエレベーターホール(右)。

集う人、住まう人に新たな価値を提供する街づくり

2020(令和2)年6月、プロジェクトは完成を遂げた。大きな船の量塊が浮かぶガラス張りのアトリウム空間(ターミナルコア)は、駅前広場に面してそびえ立つ高さ60mの壁面の圧迫感を軽減しつつ、同時に印象的な街のシンボルとなった。また、施設内のスムーズな人の流れを喚起するようエスカレーターを縦横斜めに配置し、利用者のアクティビティを立体的に視覚化した。2階には横浜市の観光案内所のほか、ライブやトークショーなどのイベントを行うことができる約100㎡の「ライブステージ」を整備。ゆったりとしたオープンスペースを設け、アトリウム全体を街のラウンジに仕立てた。

オフィスロビー階にあたる12階に設けた屋上広場「うみそらデッキ」からは、「丘の景」「海の景」両方を見渡すことができる、横浜らしさを感じられるビューポイントである。高層部のエレベーターシャフトなどのコアを広場側に配置し、線路側をガラス張りとすることで海の眺望が楽しめるオフィスとするとともに、線路側に対するファザードの構成要素となっている。また、JR横浜タワーは光によって波の揺らぎを表した外観のライトアップを採用。その美しい姿は各メディアにも取り上げられた。

開港150年を迎えて新たに生まれ変わった横浜。世界とつながる横浜の玄関口として、そこに集う人、住まう人の利便性や安全性向上に寄与する街づくりを実現したのだ。

「うみそらデッキ」夕景。「YOKOHAMA」の文字を象ったオブジェが広場のアイコンに。