DESIGN STORIES_JR東日本メカトロニクス機械設備技術研修センター

「鉄道を支える建築」未来を担う鉄道技術者を育成する研修施設 ~メカトレ~

鉄道のまち大宮の新幹線高架下に誕生した
JR東日本メカトロニクス機械設備技術研修センター、愛称「メカトレ」。
未来を担う技術者の育成拠点として敷地条件を活かした新たな空間を生み出した。

JR東日本メカトロニクス
機械設備技術研修センター
建築主:JR東日本メカトロニクス
所在地:埼玉県さいたま市
階数:地上2階(本棟)
   地上1階(空調研修棟)
延べ面積:4,640.60m²(本棟)
     119.78m²(空調研修棟)
構造:S造
竣工年:2021年

大井町から移転した新しい研修施設

JR東日本メカトロニクスは、駅のホームドアや昇降機をはじめとする機械設備や「Suica」を活用した様々なソリューションを生み出す技術サービス創造企業である。将来にわたって、鉄道を支える知識と技術を磨き社会に貢献できる人材を育成したいという思いのもと、JR東日本と共同で、駅の機械設備をメインとした新しい研修センターをつくる計画がスタートした。

新たな研修センターは、大井町からの移転となり、敷地面積が広くなることで一度に多くの研修生を迎えることになる。「見える・触れる・体験する」をキーワードに、実機を用いた実習施設はもちろん、JR東日本メカトロニクスの原点から現在、未来へ向けた取り組みを紹介するPR・アーカイブ室の新設など、多角的な視点で学びを得る場所となることが求められた。機械設備を安全に稼働させるためには、その構造やメンテナンスの方法、品質管理など幅広い知識と技能を身に付けることが必要であり、よりリアルに近い研修施設とするため「駅を模した空間にしたい」というクライアントの要望があった。

1階をホーム、2階をコンコースとして、ホームドアや券売機、改札機などの実機を配置。エスカレーター及びエレベーターで1階と2階を連絡させて、できるだけ実際の駅の様子に近づけるように計画。敷地内には消融雪設備も設けており、鉄道事業を支える機械設備全般の研修ができるよう設計・施工監理を行った。

コンコース階(2階)からホーム階(1階)へ続くエスカレーター。駅を模した形で設備を配置した

土木高架柱を活かした設計

設計コンセプトは「技術が支えるシームレスな空間へ」とし、「未来の駅を支える技術の開発」「未来の駅を創造できる施設」「創造性豊かな人材を育てる開かれた施設」を目指した。敷地は大宮総合車両センターに隣接する新幹線高架下空間。「鉄道にゆかりのある大宮のまちで、未来を担う技術者を育成したい」との強い思いから、この地が選ばれた。

しかし、新幹線高架下という特殊な敷地条件での設計・施工は困難であった。一番の課題は、敷地内にある新幹線の高架を支える土木柱の存在である。建物内に19本の土木高架柱を内包することを選択したが、この柱に支障せず、限られたスペースをいかに広く・明るく・わかりやすくつくり出すか、試行錯誤を重ねた。できる限り見通しが良く広がりを感じられるよう、土木高架柱に仕上げは設けず躯体のまま見せることとした。

左:ホームドアの研修室。左側の「02」と書かれた柱は土木高架柱であるが化粧を囲わず、研修スペースを可能な限り広く確保
右:高架を支える柱と柱の間に配置した、消融雪設備研修場

空間認知を高める大胆な色彩計画とサイン計画

高架下は暗く、土木柱により見通しが悪くなりがちであるが、ガラス壁を活用し採光の工夫をすることで開放感を生み出している。また、白を基調とした色彩計画により、明るい内部空間を演出することが可能となった。

見通しの悪さを改善するため、カラーボリューム壁を設け、研修スペース以外の部屋(トイレや倉庫など)の壁面に大胆で鮮やかな色付けをしている。柱で区切られた内部空間でも、鮮やかな色彩が視界に入ることでアイストップとなり、目的地までわかりやすく誘導できるよう計画している。

建物は19本の土木高架柱を内包する。柱の多い中でのカラーボリューム壁の見え方はBIMでも検討した

サイン計画においては、研修エリアごとにナンバリングを行い、遠くからでも視認できるよう広い面積にナンバーを掲出することで誘導効果を高めている。本施設は、研修センターに模擬駅が内在するため、「施設自体の案内サイン」と「駅の案内サイン」の2種類が混在している。これらの差別化を図るべく、施設自体のサインデザインは土木高架柱を大きく使用し、ラボのような雰囲気を感じられるデザインとした。

左:白を基調とした内装の中、壁面を大きく使用したサインと、ビビッドなカラーボリューム壁がアイストップとなる。これらは第55回日本サインデザイン賞を受賞した
右:土木高架柱には施設自体の案内サイン、天井からは模擬駅の案内サイン。サインシステムとサインデザインの両面で差別化を図った

新幹線の高架下での構造・設備設計

既存の土木高架柱がある中での設計は、構造的にも厳しい条件となった。特に難しかったのは下部構造である。土木高架柱の基礎に建物の荷重を載せないようにするため、ロングスパンの基礎梁で土木高架柱の基礎をまたぐ計画としたが、通常のRC梁(鉄筋コンクリート梁)として設計すると梁せいが大きくなり、階高がとれなくなってしまう。そこで一部基礎梁をPRC梁(プレストレスト鉄筋コンクリート梁)として設計することで、梁せいを抑えつつ、ロングスパンの基礎梁を実現した。

新幹線高架下ならではの音もまた、課題のひとつであった。敷地条件上、列車の走行音が聞こえることを防ぐことはできない。外壁の一部はサンドイッチパネルを使用し、ある程度の吸音性・遮音性は期待できたがそれだけでは完全な防音はできないため、部屋ごとに防音の優先順位を定めて対策した。

空間の高さを優先したいエリアでは、天井を張らず構造部材、設備機器が表しになっている。駅を模した無機質な空間の中でも、設備・配管・配線が美しく見えるよう、整然とした納まりに心を砕いた。

防音したい施設として優先度の高かった講習室。天井の低さが感じられないよう、排煙も兼ねた天窓までの形状を工夫した

鉄道技術者の卵を迎える場所として

外観は新幹線の流れをデザインとして取り入れ、金属サンドイッチパネルを横張りにした。横長の連窓とあわせて高架上を走行する新幹線との調和を図っている。

研修生を迎えるエントランスは、高架下ではない位置に配置。ガラスのカーテンウォールによる明るく開放的な2層吹抜けの空間で、これから始まる研修への期待感を高める演出としている。内部は、可能な限りガラス壁を使用することでエリア間の境目をなくし、様々な技術を見渡すことができる。また、2階廊下の休憩スペースは、各地から集まる研修生同士がコミュニケーションを深められるよう、居心地の良い空間とした。

愛称「メカトレ」には「JR東日本メカトロニクスのトレーニングセンター」「JR東日本グループのメカニカルエンジニアのトレーニングセンター」の2つの意味が込められている。本施設は、機器の安全安定稼働の技術を学ぶだけではなく、技術サービスの創造を通じ社会貢献できる技術者を育成することを目標としている。この研修センターで育った技術者たちが、明日も鉄道の運行を支えていく。

外観には、吸音性のある金属サンドイッチパネルを使用。上部を走る新幹線との調和を図ったデザインが研修生を迎える