DESIGN STORIES_幕張豊砂駅

ゆったりとした時間が流れる新しい駅

2023年3月18日、京葉線「新習志野駅」と「海浜幕張駅」のちょうど中間地点に「幕張豊砂駅」が開業した。
千葉県内においてJR東日本の新駅が誕生するのは25年ぶりとなる。
これは、混雑緩和や利用者の回遊性向上を実現し、まち全体の活性化を目指すプロジェクトの一環である。

幕張豊砂駅
建築主:東日本旅客鉄道
所在地:千葉県千葉市
階数:地上1階(駅本屋)
   地上2階(設備棟)
延べ面積:931.93m²
構造:S造
竣工:2023年3月

幕張新都心に新たな流れを生み出す

千葉市にある幕張新都心。国際会議やイベントが開催される幕張メッセ、ZOZOマリンスタジアムを始め、複数の大型商業施設が点在するまちとして週末を中心に多くの人々がレジャーを楽しんでいる。
これまで幕張新都心のアクセスについては京葉線「海浜幕張駅」が主要な玄関口を担っていたが、まちの発展とともに交通の混雑などが課題となっていた。そこで、千葉県・イオンモール株式会社・千葉市を構成員とする「幕張新都心拡大地区新駅設置協議会」が発足。同協議会とJR東日本は、「新習志野駅」と「海浜幕張駅」の中間地点に新駅を設置することで、混雑緩和による利便性向上や、利用者の回遊性向上によるまち全体の活性化を目指すプロジェクトを2018年から進めてきた。

新駅の計画地として選ばれたのは大型商業施設「イオンモール幕張新都心」に隣接するエリア。そして、線路を挟んだ北側は貨物列車の操車場や車両基地が広がっている。計画地は上り線が高架上であるのに対し、下り線が地上を走るというホームが段違いの軌道構造となっている。これは、京葉線がかつて貨物用路線として利用され、付近に貨物ヤードとその引き込み線が計画されていたことによるものだ。予算や工期を考慮すると軌道構造を変えずに新駅舎を造りこむ必要がある。この与条件のもと、基本設計は進められた。

駅の北東には車両基地が広がる。駅前用地では「(仮称)幕張豊砂駅前開発」の工事が進行中

公園のように明るく開放的な空間へ

レジャーを楽しむ人々や子どもを連れたファミリーがそれぞれのスピードで思い思いの場所に向かう。この駅を利用する人の多くは、周辺にある大型商業施設や、将来的に開発される駅前ホテルなどを訪れることが想定される。プロジェクトの初期段階では、事業者とデザインワークショップを行い、ブレインストーミングを実施しながら議論を重ねた。そこで、「あらゆる人が使いたくなる居場所を提供しながらも、自然エネルギーを活用し、人と地球環境に寄り添った新しい駅を目指す」という方針が決定。『ゆったりとした時間が流れる新しい駅』というコンセプトを策定し、「わかりやすさ」「開放性」「駅とまちの連続」「SDGs」の4つのキーワードを柱として、これまでの駅のイメージを刷新する開放的でおおらかな駅づくりを目指してデザインの検討を進めた。

その一つが、敷地条件を逆手に取ったアイデアだ。特殊な軌道構造によるホームのレベル差を有効利用し、天井・床の高低差を活かした開放的な吹き抜けを設けた。新設する土木建築構造物を一体的にデザインすることで、コンコースやホーム内に極力柱を無くした構造形式を採用するなど、心地よい空間づくりのために様々な工夫を取り込んだ。

左:開放的な吹き抜けを設けたコンコース。膜屋根からやさしい光が降り注ぐ
右:新設土木躯体との一体的な計画を行うことで、建築上家の柱をなくした下りホームを実現

駅の顔となる、空にひらく大屋根

幕張豊砂駅における最大の特徴が大屋根だ。屋根形状に複雑な起伏を設け、玄関口となる改札口部は、駅前空間に向かって突き出しながらも大きく開き、遠距離から駅への視認性を高める形状となっている。さらに、大屋根は上りホームの防風壁としての役割を担う構造となっており、この一体構造を生かしコンコース内に吹き抜け空間を実現。また、海に近い立地であることから屋根素材には塩害に強く軽量な膜屋根を採用し、片持ち構造とした。

上りホームの上家は、膜屋根と金属折板屋根を併用。コンコースと同様に明るいホーム空間を実現し、下りホーム上家の鉄骨フレームは上りホーム上家の鉄骨フレームから吊るすことで上下ホーム一体型の構造となっている。これにより下りホーム上家の柱は不要となり、操車場の広大な敷地を見渡せる見晴らしのよいホームが実現した。

大きく突き出した屋根形状は遠距離からの視認性も高める

この屋根の設計には、BIMが大きく貢献している。特に駅舎の大屋根の形状は複雑かつ鉄骨の3次元的な取り合いもあることから、意匠・構造の検討にBIMを用い、納まり検討・見え方の確認を行った。BIMモデルは土木データも含めて作成し、特に天井高さの厳しい、既存高架下空間の天井下地・土木樋の納まり検討やホーム上の土木・建築部材の取り合い確認に活用した。

また、駅舎の大屋根形状はCFD解析を活用し、上りホームへの防風機能・コンコースへの採風機能の両立から形状を決定、自然エネルギーを活かした設計を試みた。コンコース内に十分な自然採光を確保することで日中の照明エネルギーを削減するほか、一部壁面に開口部を設けることで積極的に自然通風を活用し、熱だまりのない快適な空間を実現している。

意匠的な観点だけでなく、構造・環境性能をそれぞれの観点から形状を最適化することで、特徴的な大屋根のデザインが生まれた。

画像提供:鉄建建設株式会社
BIMモデルは、納まり検討・見え方確認を行うとともに、複雑な駅空間を確実かつ円滑に事業者に伝えるツールとして役立てた

わかりやすい動線と千葉県産木材による温かみ

本駅は特殊な駅構造のため、利用者の行き先や現在地の把握しづらさを解消し、列車への乗降とまちへのアクセスをシームレスに感じられるよう様々な配慮がなされている。

コンコースの床は、風の流線図をもとに改札からホームまでの風の流れを床面パネルの張り分けで可視化し、利用者の行き先が認識しやすいデザインを採用。

サインについては、既存高架柱に設置することで、視線の抜けや開放性を確保している。ホームでは、矢羽根形状のサインによって利用者の誘導と視認性が考慮されている。また、木材の配置と併せてデザインすることで、内装とサインが一体となった。改札口正面やエレベーターシャフトなどの目に入りやすい部分にはピクトグラムを配置し、特殊な駅構造でも迷わずわかりやすい空間となるよう配慮した。

内装においては、千葉県産材LVLをコンコースの壁面や高架橋柱の仕上げの一部として使用して、白を基調としたコンコース空間に温かみをもたらしている。ほかにも、千葉県から無償提供を受け、国際競技大会の宿泊施設で使用された県産材LVLをベンチに加工し、コンコースおよびホーム上に設置。木の手触り感を残すことで、地域に密着した親しみのある駅空間を実現した。

内装やベンチに県産材LVLを使用することで、利用者に寄り添う温かみのある空間を構成

まちを彩る緑と光のコントラスト

「公園のような駅づくり」。このコンセプトに沿って自然とふれあうための植栽計画も進められた。外構には、シンボルツリーとなるエゴノキのほか、ソヨゴなどの中高木と、フイリヤブランなどの低木・地被を配置。また、室内緑化として、旅客トイレ前ガラス面の室内側に、シマトネリコなどの中木と低木・地被を配置した。トイレ前ガラス面やラチ内コンコース地窓からも植栽がみえることで、外とのつながりを感じられるよう配慮がなされている。

照明については、デザイン監修の立場としてメーカーと協議を重ね、照明イメージを作成。膜屋根を採用していることからメンテナンス性や配線の納まりなどを調整しつつ、夜空に美しく浮かび上がるよう光の透過性を意識した照明配置となっている。

約3年の設計期間と約3年の工事期間を経て2023年3月18日に開業した「幕張豊砂駅」。ベビーカーを押したファミリーや大きな荷物を抱えた人々の姿が数多く見受けられ、地域住民や周辺施設の利用者に快適に利用されている。また、駅構内のベンチでは、思い思いにくつろぐ人たちの姿も目立ち、まさに公園のような駅として親しまれている。

「ゆったりとした時間が流れる駅」。それは、様々な与条件を困難とは捉えず、逆に遊び心を持ちながら粘り強く設計に取り組んだ一人ひとりの想いが込められた駅でもある。

南からの日射と風を有効に利用し、パッシブデザインを施すことで省エネルギー化を目指す