
武蔵小杉駅
- 建築主:東日本旅客鉃道
- 所在地:神奈川県川崎市
- 階数:地上1階
- 延べ面積:559.53m²(2面2線化に伴う工事範囲)
237.10m²(綱島街道改札新設に伴う工事範囲) - 構造:S造
- 竣工:2022年12月(2面2線化に伴う工事範囲)
2023年12月(綱島街道改札新設に伴う工事範囲)
混雑緩和のためのプロジェクト
JR線と東急線が乗り入れる武蔵小杉駅。JR横須賀線のホームとコンコースは、南武線ホームから約500mの連絡通路で接続した形で、2010年に使用開始となった。その後、湘南新宿ライン、成田エクスプレス、相鉄線への直通列車などが停車するようになり、利便性が向上。駅の周辺では、多くのタワーマンションが建設され、都心部へ通勤するビジネスマンとその家族の生活拠点となっている。
1日の乗車人員数は約10万人(2022年度)の武蔵小杉駅であるが、通勤時間帯の混雑が大きな課題となっており、特に新南改札(横須賀線口)の混雑緩和のため、さまざまな対策が行われてきた。本プロジェクトは、抜本的な混雑緩和のため、横須賀線ホームを増設する「2面2線化」と、改札口へのアクセスがなかった新丸子方面に向けて新しく「綱島街道改札」を新設するもの。「2面2線化」は2022年12月18日に使用開始、「綱島街道改札」は約1年後の2023年12月24日に使用開始となった。
「とき」・「ひと」・「自然」の流れをデザインする
横須賀線の既存ホームは1面2線の島式ホームであったが、東側にホームを1面増設し(2面2線化)、既存ホームは上り専用、新ホームは下り専用となった。新ホームの設置に合わせた、コンコースの拡幅、昇降設備の設置、駅事務室の移転、ホーム上家の設計を行った。
デザインコンセプトは、混雑緩和を柱に「武蔵小杉の「とき」・「ひと」・「自然」の流れを表現した駅」と定めた。時代とともに成長を続ける武蔵小杉のまちの先進性をデザインに取り込むとともに、自然の通風や採光を確保することで、心地よい流動を生み出す計画とした。
風と光を感じるホーム
新設ホームの上家形状に関しては、新設ホーム上に既存上家柱が残置されるため、流動の安全性を考慮して、一本柱の構造を基本とするところから検討を始めた。上家構造の安全性を確保しつつ、光と風を感じる明るい空間となるよう計画。素材については、屋根と防風壁材の軽量化が必要となり、屋根は既存ホームと同じ膜屋根、防風壁にはポリカーボネート製中空複層板を採用した。選定にあたっては、軽量であることに加え、武蔵小杉の先進的なまちのイメージを表現する材料であることを考慮している。膜屋根とポリカーボネート製の防風壁は、日中は自然光に包まれた快適で安全なホーム空間をつくり出す。一方で夜は、ホームの明かりがまちに滲み出すことで、温もりのある光の帯を作り出す。武蔵小杉の夜景を彩る、象徴的な駅の顔の一つとなった。
防風壁については、ポリカーボネートパネルの中空部にワイヤーを通し固定することで、落下を防止する納まりとした。JR東日本構造技術センターと検討の上落下実験を実施し、取り付け方や金具形状を検討。外れても落下しない最適形状を決定した。
長いストリートをつなぐ新しい改札
綱島街道改札は、新丸子方面からのアクセス性の向上を図るため計画された。改札の外は川崎市が整備中の新たな歩行者通路との連携も考慮している。
綱島街道改札コンコースのデザインコンセプトは、2面2線化施策の流れを引き継ぎ、川崎市の新たな歩行者通路と駅コンコースをストリートとして位置付けている。綱島街道改札をヒューマンスケールの小屋に見立て、屋外と屋内に同じ素材を使用することで、内外のストリート(川崎市歩行者通路と駅コンコース)がつながり、一体となる壁面デザインとした。
壁面に使用した素材は、南武線からの連絡通路のコンクリート打放しの粗々しさに呼応し、美しい素材感のあるものとしてガルバリウム鋼板の一文字葺きを採用し、小割にすることで親近感を表現。新規改札口施策にて広がったコンコース部分は、2面2線化施策時に改良されたコンコース部分と自然につながる明るい空間としている。
温かみのあるコンコース
コンコースについても、プロジェクトのデザインコンセプトを意識して、壁面に3つの仕上げ材(スチールパネル、OSB合板、波板スパンドレル)を使用。細長いコンコース空間の中に、それぞれの素材が帯状に繋がっていくことで、連続性が生まれ、目線の高さにあるOSB合板により、温かみのあるコンコースになった。また、階段やエスカレーターの配置に合わせて柱全体を使った案内サインと開口部を設置し、長いコンコースの中で目指すべき場所がわかりやすいように設計した。開口部にカーテンウォールとガラリを用いることで、採光と通風を取り入れ、自然を感じられる空間としている。