PROJECT STORIES

WATERS takeshiba

水辺と浜離宮恩賜庭園を臨む
環境を最大限に活かした新しい街づくりへの挑戦。

JR浜松町駅にほど近い都心にありながら水辺に隣接し、浜離宮恩賜庭園の豊かな緑が目の前に広がる絶好のロケーションで行われたのがWATERS takeshibaプロジェクトだ。以前より劇団四季の劇場がこの地で培ってきた文化・芸術の発信拠点としての機能をさらに昇華させるとともに、水辺環境を活かした新しい賑わいをつくることをテーマにプロジェクトはスタートした。約23,000㎡のJR東日本の事業用地において、既存の劇場を残しながら経年したホテル、社宅、劇場、事務所を、ラグジュアリーホテル、オフィス、商業施設、劇場からなる複合施設に建て替える都心の開発計画である。

PROJECT TEAM

写真左から朴、滝澤、芳本、湯

朴 明浩AKIHIRO PARK
建築設計本部 まちづくり推進部門
2003年入社
大規模プロジェクトに携わりたいとJRE設計に転職。プロジェクトリーダーとして本プロジェクトの設計が始まった2015年より携わる。
滝澤 柾志MASASHI TAKIZAWA
建築設計本部 ターミナル駅開発部門
2015年入社
駅や駅前施設の設計を通して都市の発展に寄与する建築をつくりたいと入社。おもにシアター棟の基本計画から現場監理を担当。
芳本 晃大朗KOTARO YOSHIMOTO
商業設計本部 商業第2部門
2012年入社
暮らしと密接に関係し、誰もが利用する建物の設計を通して社会に貢献したいと考え、入社。主にタワー棟の全体計画と外観外構、オフィスの意匠計画などを担当。
湯 香菜子KANAKO YU
建築設計本部 まちづくり推進部門
2006年入社
駅という場所の可能性を感じたことや、駅周辺の建築に携わりたいと入社。主にタワー棟、シアター棟の低層階部分の商業施設の設計監理を担当。

※掲載内容は取材当時のものです

CHAPTER01

前例のない
4年半という短期プロジェクト

2015年、竹芝の開発計画のオファーを受けたプロジェクトリーダーの朴は、あまりに短い納期に驚いたという。「これだけの規模になると、基本設計から工事完了まで最短でも6年はかかります。ところが指示された期間はわずか4年半。『これは無理だな』というのが率直な印象でした。さらに2カ月後にデザインプレゼンを求められるなど、とにかく時間がない。そのため、工事費用の算出や工事会社の選定をしながらデザイン案を同時並行で考えなければならなかったのです」(朴)。すぐさま、朴はコンセプトづくりに着手した。「計画地に足を運んでみると、せっかくの水辺が塀で閉ざされていて凄くもったいない印象を受けました。通常、建物は道路側に対して気を配りますが、今回はどちらかというと豊かな水辺環境をどのように活かして作り込むかに主眼を置きました」(朴)。こうして朴が提示したコンセプトをもとにデザイン設計が急ピッチで進められた。

CHAPTER02

新たな東京のアイコンとなる
ランドマークの設計

もうひとつ、今回のプロジェクトをさらに難しくしたものがある。それが、「新しくて目立つもの」というクライアントからのオーダーだった。朴を始め、意匠設計を担当する芳本、滝澤の3人は、毎週デザイン案を持ち寄って議論を繰り返した。さらに通常のやり方では間に合わないと、当時はまだ黎明期のBIMを用いた設計作業が続いた。クライアントのオーダーに応えつつ水辺の気持ち良い空間をつくる。その実現のためにチームがたどり着いた発想が「テラス」だった。「外と内の境界をあいまいにしながら敷地全体がひとつの環境になるように、タワー棟、シアター棟の縁側にテラスを配置し、これらが“谷”に位置する屋外広場と呼応することで建築と一体となった賑わいを生み出すというもの。その中心となるタワー棟は、地上広場から段上に連続するテラスをグラデーショナルに形を変えながら積層することで、ランドスケープと一体となった建築を目指しました」(芳本)。

CHAPTER03

街全体に彩りを与える
劇場の構え

敷地内には、タワー棟のほかに劇団四季が使用するシアター棟もある。「シアター棟は、積層されたテラスを介して、広場とタワー棟と一体的な空間を構成するデザインを基本としつつ、劇場の持つ個性の表現と劇場のボリュームが生み出す圧迫感の軽減という、相反する2つの要素を両立させました。長大な軒が斜めになっている屋根は奇抜に見えますが、浜離宮から見ると一番日陰が落ちない形状で成り立っています」(滝澤)。また、タワーの壁面には劇場名である「春」「秋」にちなんで、グラフィックデザインされた桜と紅葉の模様が彫り込んであるのも特徴的だ。「劇場を訪れた時の期待感や高揚感など、非日常的な雰囲気を出すことを目的としています。同時に、浜離宮や広場の背景としての庭園樹木のコラージュとして街に彩りを与えることを期待しました」(滝澤)。

CHAPTER04

これまでの都心部の商業施設と異なる広がりを持った空間を

設計の段階で事業者が決定していれば、事業者の要望も取り入れながら設計を行えるが、今回は建物全体の設計が固まった後に事業者が確定した。必然的に、事業者の要望により建物に関わる設計を変更せざるを得ない箇所がいくつも現れる。湯も、商業施設の目線から設計変更を何度も要望した。「すでに工事が始まった後に、1階の水辺に面したゾーンにビールを提供するテナントの出店が決定しました。外部空間やテラスと一体となった店舗区画とすることで外部へ拡張した店舗づくりができるのではないかと考え、隣接する大階段の一部を店舗のオープンスペースに変更できないかと提案しました」(湯)。コンセプトに基づいた広がりを持った空間を創出するため安易に妥協せず、他の店舗区画でも柱位置の調整やエスカレーター位置の変更要望を行い、その都度、施工スケジュール、構造設計、コストなど関係者との調整に追われた。その苦労が実を結び、これまでの都心部の商業施設とはまったく異なる広がりを持つ空間が完成した。

CHAPTER05

コンセプトに基づいて
最後まで完遂したプロジェクト

2020年、竹芝エリアは新しく生まれ変わった。タワー棟の上層階に位置するラグジュアリーホテルでは各部屋のテラスから東京の夜景を望め、オフィスフロアもアウターワークスペースとして活用できるようになっている。また、劇場に来る人々が高揚感を高められるシアター棟、建物外に用途が拡張していく商業施設など、テラスと広場によって周辺の自然環境を取り込むこれまでにない複合商業施設となっている。「大きな建物であればあるほど、最初に意図したものと完成したものがかけ離れていく傾向がありますが、竹芝はそれがありませんでした。短期間というのは悪いことではなくて、実は物事が決まりやすい。吟味する時間があるほど丸くなりやすいですが、時間が短いために削らなかったこともあります。この経験は自分にとって自信になりましたし、思い切った発想ができたのもこのメンバーだからこそです」(朴)。東京の新たな魅力を感じられる場所がまたひとつ誕生した。

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