PROJECT STORIES

アトレ

時代に合わせて生まれ変わる
駅ビルを賑わす小さな街。

駅に直結した商業施設「アトレ」。首都圏の主要な駅ビルを中心に複数の店舗が展開され、利便性の良さから毎日多くの人々がショッピングや飲食を楽しんでいる。その一つである「アトレ恵比寿」は1997年に開業。ファッションを中心に、日用品、飲食、カルチャー、さらに屋上には菜園を備え、「街の顔」として人々に親しまれてきた。そして、開業から15年が過ぎた2013年、新たな価値を提供する商業施設として刷新する、数年間におよぶ大規模なリニューアルプロジェクトがスタートした。

PROJECT TEAM

写真左から水谷、山本、栗原、有田

栗原 広樹HIROKI KURIHARA
商業設計本部 商業第2部門
2008年入社
街の玄関口である駅を中心とした公益的価値の高い設計フィールドに魅力を感じて入社する。アトレ恵比寿のリニューアルでは、プロジェクトマネージャーとしてチームを牽引した。
山本 裕美子YUMIKO YAMAMOTO
ターミナル駅開発部門
2017年入社
まちとまちを結ぶ駅のポテンシャルに惹かれ、駅や隣接する施設の設計に携わりたいと入社。アトレ恵比寿3〜6Fの店舗改装のほか、アトレ秋葉原なども担当。
有田 一乃ICHINO ARITA
商業第2部門
2017年入社
駅や駅ビルといった、人々の暮らしと密接につながっている場所の建築設計に特化している点に魅力を感じて入社。アトレ恵比寿のリニューアルでは6Fの飲食フロア改装を担当。
水谷 慶KEI MIZUTANI
商業第1部門
2016年入社
建物のデザインだけではなく、まち全体に影響を与える駅の建築設計に魅力とやりがいを感じて入社する。アトレ大森、アトレ大井町の改修設計・監理を担当。

※掲載内容は取材当時のものです

CHAPTER01

ふと立ち寄りたくなる、
温もりあふれる街へ

JR恵比寿駅。その駅ビルは15階建てで、3〜7Fが商業施設エリアとなっており、2Fにあたる部分は鉄道が通っている。駅ビルの商業施設の改装にあたり前提となるのが、利用者やテナントの店舗に与える影響を最小限に抑えること。そのため、3F→4F→5F→2F→1F→6Fとフロアごとに段階を分けて実施設計や改装工事を行うことになった。その1番目となる3Fは、まさにアトレ恵比寿の象徴ともいえるフロアだ。駅の東口と西口をアーチ状に結ぶ大きな自由通路があり、両側に食品関連の店舗が連なっている。プロジェクトマネージャーを務める栗原は、クライアントの意向を踏まえ、共にコンセプトを創り上げていった。「商業施設は様々なショップの集合体です。それらを繋げるためのワードが“GRAN PASSAGE”。パリの街中にあるような個性あふれるショップファサードが一体感を持ちながら連続する、賑わいのあるマルシェを実現したいと考えました」(栗原)。そのコンセプトで、アトレ恵比寿リニューアルの方向性は定まった。

CHAPTER02

改修工事ならではの
「既存の把握」

リニューアルの意匠設計で特に重要となるのが、建物の現状を把握する基本調査だ。商業施設は店舗の入れ替わりが頻繁であり、年数が経つほど様々な人の手が加わり、当初設計から変更になっている部分も多々ある。そのため、設計前に状況を詳細に調査する必要があるのだ。入社1年目でプロジェクトメンバーに加わった山本は、そんな改装業務に当初は戸惑ったという。「特に、床下や壁内、天井裏など隠ぺい部については実際に壊してみないと詳細まで把握できない部分が多くあります。例えば、図面に無かった設備ダクトや配管が通っていると、目指すデザインに大きな制約が出るため、既存図をしっかりと読み込むことはもちろん、店舗が閉店している夜間に天井裏を確認する等、現地調査を繰り返して設計する必要がありました。」(山本)。それでも把握しきれない部分については、仮説を立てて設計し、万が一の場合に備えて別案を用意しなければならないという。

CHAPTER03

コンセプトに基づいた
設計・施工を求めて

3Fでは着々と設計が進んでいった。自由通路をはさんだ両側にはデリカゾーンとスイーツゾーンが配置され、各テナントの区画が整理されていく。基本的にJRE設計が担当するのは通路やトイレ、バックヤードといった共有部分で、テナントが入るスペースの設計や内装工事は各テナントに任される。しかし、自由にデザインされてしまうと、アトレ恵比寿としての一体感が損なわれてしまうことから、コンセプトに基づいたデザイン上のルールブックを作成し、各テナントと協調を図り調整を進めた。「ロゴの大きさや色使い、照明の色、使用する什器サイズ、天井の高さや形状など全体の統一感を図るために細かく設定しました。それぞれのテナントと打ち合わせを重ね、隣接する店舗と調整しながら内装デザインを作り上げていきます」(栗原)。共有部と共に店舗部分も同じコンセプトに沿ってデザインするからこそ、相乗効果が生まれ、アトレのブランド訴求力が上がる。時間の制約もある中、栗原は設計監理に努めていった。

CHAPTER04

スピード感のある現場で
求められるスケッチ力

山本は、3Fの設計と並行して、ファッションや日用品のフロアとなる4Fの設計にも同時に取り組んでいた。アトレ恵比寿の新たなコンセプトをもとに事業者と内装デザイナーの意見をまとめ、自分なりに図面に反映していく。「商業施設の設計で求められるのはスピード感です。事業者との打ち合わせで課題が出た際は、持ち帰って検討する前に、その場でスケッチを描いて意思統一を図ったうえで進めていくなど、常にレスポンスを早くすることを心掛けました」(山本)。こうして完成した4Fは、天井にルーバーが連なる空間の中、ゆっくりと買い物を楽しめるフロアへと生まれ変わった。「駅舎の設計は完成まで数年もしくは数十年かかりますが、商業施設の改装は設計したものが短期間で出来上がり、お客さまがどのように利用しているかすぐに目に見えるのが魅力的だと感じています」(山本)。改装オープン後、山本は現地に足を運んだ。自ら担当したフロアが多くの人で賑わっている光景は、今でも忘れられないという。

CHAPTER05

事業者と共に
建物を育てていく仕事

改装の最後となる6Fは飲食フロアであり、共用部の改装を担当したのが有田だ。「デザイナーとともに、“DINING GARDEN”というコンセプトのもと、植栽や古木材を用いて環境デザインを考えました。フロア中心にある大きな吹抜空間は明るいテラス空間とし、吹抜エリアに繋がる両側は、空間全体を少し暗めに、色温度は高めに設定し、飲食店らしい落ち着いた空間としました。」(有田)。6Fは開業当時から営業している店舗も多く、今回のリニューアルでは設備の更新も兼ねていた。そこで、既存図をもとに現況を確認し、設備の収まり調整などを行なった。「建物は建てて終わりではなく運用していく必要があります。設計した建物が出来上がった後も、リニューアルというかたちで建物に長く関わり、事業者と共に建物を育てていけることに、この仕事の価値があります」(有田)。2020年に6Fの改装が終了。アトレ恵比寿のリニューアルプロジェクトはこれを持って無事に終了した。

CHAPTER06

リニューアルによって
新たな価値を創出する

時を同じくして、他店舗のアトレでもリニューアルが行われていた。アトレ大森とアトレ大井町の改修設計・監理を担当したのが水谷だ。「アトレ大森では主にお客さまトイレのリニューアル、アトレ大井町では2F・4Fのキッズスペースやレストスペースのデザインを担当しました。レトロなインテリアやグリーンを多用することで、非日常な雰囲気のなかで買い物を楽しむことができる空間づくりを心掛けました。商業施設のリニューアルは、既存の状況を把握し限られた空間の中でデザインを整理・統合する難しさがありますが、既存のものと新たなデザインを融合させることで新築では生まれ得ない価値を生み出すことができます。」(水谷)。小さなスペースを巧みに利用することで、水谷は商業施設に新たな価値をもたらした。水谷が言うように、基本的に商業施設のリニューアルとは、既存を受け入れたうえでデザインを行う行為だ。栗原はその仕事の意義について語った。「リニューアルは海外では一般的ですが、日本では新築文化が根強く未だネガティブなイメージがあります。けれども、今後は時代的に求められていくでしょう。大切なのは、過去と未来を意識すること。そして、すべてを刷新するのではなく、残すという決断も必要です」(栗原)。人と街をつなぎ、暮らしを彩るために。アトレはこれからも常に新たな価値を生み出すショッピングセンターとして輝き続けていく。

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