PROJECT STORIES

長野駅

信州エリアの魅力を集約し、
駅と善光寺を中核とした新たなまちづくりを目指して。

長野市のほぼ中央に位置する長野駅は、官公庁の機関も多くあることから「信州の玄関口」としての役目を担っている。1997年に長野新幹線が開業し、翌1998年に開催された長野冬季オリンピックによって活況を迎えた長野駅だったが、人口減少などの影響を受けて徐々に街の活気が失われていた。そこで、2015年(平成27年)3月14日の北陸新幹線金沢延伸による新幹線利用客の増加を絶好の機会と捉え、長野に足止めする起爆剤として長野駅に信州エリアの魅力を集約・再編することになった。広域圏へ情報発信する「ハブ拠点化」と中心的役割を担う「シンボルの構築」を目指す、駅と善光寺を中核とした新たなまちづくりプロジェクトである。

PROJECT TEAM

写真左から秋山、竹内、田口、池末

秋山 隆紀TAKANORI AKIYAMA
商業設計本部 商業第2部門
2010年入社
1日に何万人もが利用する建築物を設計することに憧れてJRE設計に入社。当プロジェクトでは主に建物の意匠設計と「信州100stories」を担当。
竹内 綱城TSUNAKI TAKEUCHI
上信越事務所
2004年入社
国鉄職員であった父の影響で幼い頃から鉄道を身近に感じていたこともあり、駅を設計する仕事に魅力を感じて入社。当プロジェクトでは調査設計から携わり、最終的にプロジェクトマネージャーを務める。
田口 光HIKARU TAGUCHI
建築設計本部 鉄道デザインサービス部
2010年入社
以前勤めていたデザイン事務所がJRE設計のパートナーだったことが縁で転職。当プロジェクトでは地元の良さを表現した誘導サインなどを手がける。
池末 信一郎SHINICHIRO IKESUE
エンジニアリング設計本部 設備部門
2010年入社
設計事務所、空調機メーカーに勤務していたが、空調設計のみならず大きな場所で設計したいと考え、JRE設計に転職。当プロジェクトでは給排水衛生設備および機械設備の基本設計を担当。

※掲載内容は取材当時のものです

CHAPTER01

各事業者を立体的に接続することで
利便性・回遊性を高める

開発前の長野駅は、駅舎、駅ビル、ホテル、駐車場の建物が別々に存在していたため、利用者は真冬でも外に出て移動せざるを得なかった。プロジェクトの推進を託された竹内は、これらの事業者を接続するための調整業務に尽力した。「今回の計画では、利用者の利便性と回遊性を高めるために各事業者を同一敷地・同一建物で接続するのが重要なポイントです。一体的な建築物・空間を目指していく中でも、自治体や事業者それぞれの立場によって価値観が異なります。例えば、長野市としては信州の新たな顔としてアピールするために建物の中央に吹き抜け空間をつくりたい。しかし、駅ビルとしては収益率を高めるために床面積を増やしたいし、JR東日本としては駅の利便性を高めたい。それぞれの戦略や思いを把握した上で各事業者の要望を調整し、設計の提案を繰り返し行ったことで、ようやくすべての関係者が納得できる形に収まったのです」(竹内)。こうしてプロジェクトの中心となる建物の基本設計ができ上がった。

CHAPTER02

善光寺の賑わいを感じさせる
「大庇(おおひさし)・列柱」

全国から数多くの観光客が訪れる善光寺。その参道とつながる長野駅の善光寺口では、長野市が所有する駅前広場と一体となった「長野の顔づくり」が進められた。「市民からは、仏閣の街の雰囲気を大切にしたいという声が多く寄せられ、市からは、長野らしさを体感できるものという要望を受けました。そこで、我々が提案したのが信州の木材を使用した『大庇・列柱』です。善光寺の歴史・伝統性や仏閣のあるゲート性を感じさせ、雄大な自然風景のようなスケール感、樹木に囲まれる木陰の空間をモチーフにしました」(竹内)。基本設計を担当した秋山は、この佇まいを建物内部につなげた。「建物内部に街を眺められる公共空間のコミュニティスペースを作ることを提案し、完成したのが『りんご広場』です。大庇や駅前広場を見ながら、大庇の影が木陰のように優しく感じられるよう配慮しました。これにより参道から続く街の賑わいを建物内に迎えられるようになっています」(秋山)。

CHAPTER03

環境に配慮した
省エネシステムの構築

今回のプロジェクトではコンストラクション・マネージメント(CM)方式が取られていた。これは、クライアントの立場に立ったCM会社が、プロジェクトの目標や要求の達成を目指して主体的に進める建築生産方式だ。設備設計を担当する池末は、CM会社からの要望を実現するために尽力した。「建物の規模が大きくなる優位性を活かして、省エネ効果を図りたいという提案を受けました。各事業者が100、100、100で使っていた熱源を集約して効率よく分配することで300を250にしたいというものです。ところが、建物の所有区分、受電容量の制限、危機故障時のリスク回避など問題は山積みでした。そこで捻り出したアイデアが、ガスと電力のベストミックスによる個別方式での省エネ空調システムの構築でした」(池末)。事業者の所有区分に配慮した上で使用電力も抑えた方式は事業者・CM会社を満足させるだけではなく、信州という地域に合う環境に配慮された空間を実現した。

CHAPTER04

建物全体で楽しめる、
信州をめぐる旅

信州の魅力が集約された場所にする。それもこのプロジェクトの目的である。その実現のために秋山と田口が提案したのが『信州100stories』だ。「長野らしさを感じさせる展示物を駅構内の様々な場所に設置することで、利用客が楽しめる企画を提案しました。例えば、駅にある案内サインに信州の木材を使い、番線表記は木曽の漆塗りを利用するなど、場所ごとに信州の魅力が楽しめるようになっています」(秋山)。これらを視覚的に分かりやすくデザインしたのが田口だ。「展示を楽しんでもらうだけではなく、駅の機能と合わせて何かできないかと考え、トイレの案内や番線案内まで楽しんでもらえるよう、善光寺本堂や地獄谷のサルが温泉に入っているアイコンなど信州各地の観光地をモチーフにしながらデザインしました」(田口)。『信州100stories』は、駅舎だけではなく駅ビルやホテルにも展示され、建物が一体となって行う取り組みとして今も続いている。

CHAPTER05

駅の利用価値を高め、
再び街に賑わいを取り戻す

善光寺が7年に一度開催するご開帳の年にあたる2015年、長野駅善光寺口において完成式典が催された。その日は、駅を背景に記念撮影をする人が絶えなかったという。「達成感より、ご開帳に間に合わせることができて安堵したというのが本音です。今回の善光寺口駅ビル開発で行ったブランディングにより、駅自体を楽しみに長野県近郊の人々が集まり、ハブ拠点化によって地域から信州圏全体の情報発信ができるなど駅の利用価値が高まり、大庇・列柱との融合で駅ビルファサードにも魅力が増して駅ビルの収益増にも大きく貢献しました。今回のプロジェクトは、秋山を核としたメンバーが複数の事業者に対して横のつながりを生んでくれたことが大きかったと思います。完成までに複雑な課題が数多く出てきましたが、一つひとつ紐解きながら克服することができたことで、あらためてコミュニケーションの重要性を学びましたね」(竹内)。プロジェクトメンバーたちの熱意が、北陸新幹線延伸によって単なる通過駅になるはずだった駅を救ったのだ。

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